これまでは、大きく転移と誤用、誤用の中のエラーとミステイクさらにエラーの種類について見てきましたが、
今回は、まだ扱っていないいくつかの転移や誤用の例を紹介します。
誤用を知っておくと、学生の指導の際にも非常に役に立つので、ぜひ頭に残るようにしておきましょう。
今回は6つの用語を見ていこうと思います。
その他のいろいろな転移と誤用のキーワード
プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)
プラグマティック・トランスファーとは語用論的転移ともいい、文法的には間違っていないが、適切ではないというものです。
佐藤さんは英語の授業で「had better 〜」で「〜したほうがいい」と習ったので、ちょっと髪が長くなってきた友人に髪切ったほうが似合うと思うよというくらいの気持ちで、「You had better get your hair cut.」と言ってみたところ、実は「had better」には、単なるアドバイスではなく「〜したほうがいいよ。しなかったら、ひどいことになるよ?」という高圧的に取られかねない表現であることを知りませんでした。その結果、その友人に嫌われてしまったというお話があります。(わたしが創ったフィクションです。)
上記の「had better」の文は文法的に間違っていません。(ネイティブじゃないので、もし間違っていたら、ごめんなさい。)
しかし、使った結果、嫌われてしまっているので、適切な言い方ではありませんでした。
これがプラグマティック・トランスファー(語用論的転移)です。
勘の鋭い方なら、いま「??」という文字が浮かんでいるかもしれません。
そうです。言語間エラーと何が違うの?と思っているかもしれません。
確かに非常にわかりにくく、実際調べてみてもよくわかりませんでしたが、私の中では次のように理解しています。
プラグマティック・トランスファーは、語用論的転移のことですから、あくまで母語が影響することです。
言語間エラーはその名の通り、エラーですから、
先の例を使うと、日本語の「たほうがいい」という表現が、英語の文を作る際に影響し(語用論的転移)、その結果、言語間エラーが発生してしまって友人に嫌われてしまったということです。さらにこの場合の転移は、負の転移であることもわかりますね。
化石化
化石化とは、間違ったまま使うことに慣れてしまうなどして、ある程度上級者になっても残ってしまう現象のことです。
骨折してそのまま病院にも行かずに自分で固定して直そうとすると、不自然な形で治ってしまうようなイメージです。
間違いが治らないでそのまま残っているわけです。
さて、最近では必ず治らないわけではないこともあり、化石という言葉はふさわしくないんじゃないということで定着化という言葉を使うこともあるそうです。
このように間違いが定着してしまっているので、エラーに分類されると言えるでしょう。
逆行(バックスライディング)
逆行とは、逆に行くと書かれることから、昔の状態に戻ってしまうようなイメージを持つと、理解がしやすいです。
緊張やプレッシャーがかかることで、今ではしないような昔やってしまっていた誤用がポロっとでてしまうことです。
私たちも極限のプレッシャーの状況であれば、九九の計算も間違えてしまうかもしれませんよね。
逆行はプレッシャーがなければ大丈夫なので自分で修正ができます。
ですから、逆行はミステイクに分類されます。
過剰一般化(過剰般化)
過剰一般化とは、ある規則をその規則があてはまらない他のものにまで当てはめてしまうことです。
簡単にいうと、ルールのゴリ押しです。パワープレイです。
ナ形容詞の否定を作る「〜じゃない」を他の言葉に当てはめて、「おいしいじゃないです」「行くじゃありません」と言ってしまうのが過剰一般化の例です。
過剰般化という言い方をすることもあります。
こちらは、日本語内で起こっているので、言語内エラーの例ですね。
簡略化
簡略化とは、その言葉の通り、わかりにくいものは、簡単にしましょうということです。
助詞の省略がその例です。
「私 スキー 行きます。」
助詞は学習者にとって非常にややこしいです。
ややこしいなら、言わなきゃいいじゃんというのが簡略化です。
簡略化は必ずエラーになるというわけではないです。
実際、「俺来週スキー行くわ。」のように日本人も助詞の省略をよく使いますよね。
では、次の例はどうでしょうか。
「私 両親 スキー 行きました。」
「私」と「両親」にうまく助詞を補ってみます。
補い候補① 「私は 両親と スキーに行きました。」
補い候補② 「私の 両親は スキーに行きました。」
2通りも正しい文ができてしまいました。
このように簡略化はグローバルエラーに繋がることがあります。
簡略化は正しく使うと便利なのですが、学習者が過剰に使ってしまうと、エラーの原因になってしまいます。
こちらも、言語内エラーの例ですね。
回避
シャクターにより指摘された回避は、誤用というわけではなく誤用を避けるためのものです。
難しい文法や苦手な語彙などを使わずに、代わりに簡単に言い換えたりすることです。
例えば、動詞のマス形から、可能動詞の形を作るのは学習者にとって慣れるまでは大変です。
「飲める」が「飲めれる」となってしまったりします。そんなとき、可能の形にしなくても、「ことができます」を使えばいいじじゃないということで、可能の形を使わずに「ことができます」を多用するということが起こります。
このように回避は間違っていることを相手に伝わらないので非常に有用ですが、教師からすると誤用に気づきにくいことが弱点として挙げられます。
ところで、名前が出てくると、セットで覚えなきゃという気持ちになってしまいますね。
語呂合わせでも作って、丸暗記を「シャクっと回避」しておきましょう…..。はい。
まとめ
〜いろいろな転移と誤用の用語〜
①プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)
文法は間違っていないが、適切ではない間違い
②化石化
間違いが定着してしまっていること
③逆行
緊張して、言えなくなること
④過剰一般化
ルールを過剰に当てはめてしまうこと
⑤簡略化
簡単にする(しすぎてしまう)こと
⑥回避
間違えないように別の言い方をすること
おわりに
新しい用語が6つも出てきてしまいましたね。
覚えるのは大変だと思いますが、転移や誤用は自分と関連づけて覚えることができるといいかなとおもいます。
例えば、「ありがとう」「ごめんなさい」「すみませーん(話しかける)」という3つの言葉を持つ「sorry」英単語があります。
かなり汎用的なので私は「ソーリー」をたくさん使っていたら、「日本人はsorryを使いすぎる」と言われたことがありますが、今思えばそれもプラグマティック・トランスファーの例だったのかなと思います。
このように、英語はみなさんしっかり勉強をした人も多いと思いますから、個人的経験をぜひ思い出してみると、記憶と経験が関連づいて思い出しやすくなります。
参考にした本
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