日本語教師をしていると、ことあるごとに言葉の意味の違いというものが気になります。
それは、「船」と「舟」のような語彙的なものから「たら」と「ば」のような文法的なものまでいろいろあります。
もし違いがよくわからなかったらみなさんならどうしますか。
辞書を使えばいい? たしかにそうかもしれません。
しかし、例えば「勝つ」と「勝利」の言葉の違いが知るために辞書を引いてみると、「勝利」という言葉の説明に「勝つこと」と書いてあったりします。無限ループに陥ってしまい結局何が違うのかわからなくなってしまうことがあります。
今回はそんな意味の違いにどのように向き合うかについて見ていこうと思います。
言葉の意味の違いの考え方
伝統的な意味論では、言葉の意味はさまざまな要素からできていると考えます。
この考え方では、言葉の意味の違いが知りたい場合、それぞれの言葉をどんどん要素に分けていって、違いを見つけることで、意味の違いを理解できるということになります。
自分が作る料理とお店の料理は同じ料理なのにどうしてこんなに味が違うのか、その秘密を探るために、どんな材料や調味料が使われているのか細かく調べていくようなイメージです。
このどんどん細かい要素に分けていくことを成分分析と言います。
実際に例を見ていきましょう。
成分分析とはどういうものか
では実際に「男」と「女」の2つの意味の成分分析して違いを見つけてみましょう。
まずは分析したい言葉がどんな意味素性からできているのかを考えます。
つまり、その言葉はどんな要素からできているのかを考えます。
今回は、「人間」「男性(もしくは女性)」という意味素性が関係していると考えます。
そして、成分分析では当てはまるものには「+」、そうでないものには「−」、どちらでもよいものには「±」を使って区切っていきます。
それを踏まえると、以下のように分析されます。
このように意味素性に分類することで、はっきりと違いがわかるようになりました。
これが成分分析のパワーです。
上の例はあえてシンプルな言葉で行いましたが、多くは意味が似ている言葉について分析するので、よく考える必要があります。
よく使われそうなものだと以下のようなものがあります。
・料理の「焼く」「煮る」「炒める」「蒸す」
・掃除の「掃く」「拭く」「磨く」
気になる方はぜひ成分分析してみるといい練習になると思います。
すこし話が変わってしまいますが、このような考え方を古典的カテゴリー観と言います。
共起関係(選択制限)とは
しっかりと成分分析ができれば、意味の違いがわかるだけでなく、不自然な文の説明もすることができます。
例えば、「食べる」を要素に分けてみます。
食べる・・・[ + 食べ物] [ + 口から]
簡単にこんな感じでしょうか。間違っていなさそうに見えますね。
さて、次は文を見てみましょう。
・兄は酸素を食べた。
これは、文として不自然なことがわかるかと思います。
「食べる」には「+ 食べ物」の要素が必要ですが、酸素は「− 食べ物」だからだと説明ができるからです。
次はこの文を見てみましょう。
・めがねはカレーを食べた。
明らかにおかしいことはわかりますが、どうしてでしょうか。
実は、食べるにはある要素が抜けていたと考えることができます。
それを補ってもう一度意味素性に分けてみると、
食べる・・・[ + 食べ物] [ + 口から] [ + 生物]
このように、「食べる」には「生物」という主語が必要だということがわかります。
このように、正しく成分分析ができれば、おかしな文の説明もできてしまいます。
反対に、成分分析が間違っていたら、不自然な理由が説明できないということにもなりますね。
とはいっても、普通に考えたら、「生物」という要素があるなんてすぐには分かりませんよね。
言葉には意味の他にもゲームの隠し要素のようなものがあります。
それは、言葉には他の語といっしょに使われる関係があるというものです。
その関係を選択制限(共起関係とも)といいます。
上の例の場合、「食べる」という言葉には [+ 生物] がいっしょに使われなければならないという選択制限があるにもかかわらず、「めがね」という [− 生物] という要素を使ってしまった。
つまり、選択制限に合わなかったので、不自然な文だと説明ができるのです。
まとめ
〜まとめ〜
◆成分分析
言葉を意味成分に分けて、その言葉の意味を理解しようとすること
→ 古典的カテゴリー
◆選択制限
共起関係とも。他の語といっしょに使われる関係。
おわりに
今回は成分分析についてみてきました。
成分分析は、意味が似ている言葉の違いを探す際には非常に便利です。
単純な語彙だけでなく、日本語文法で登場する「と・ば・たら・なら」のような似ている文型がたくさん登場して、日本語教師の頭を悩ませます。
そんなときどうやって使い分けるかを成分分析的に整理すると役立つことがあります。
とってもすごい成分分析ですが、問題点もあります。
次回は、どういう点がよくないのかについてみていこうと思います。
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