今回はアウトプット仮説について見ていこうと思います。
このブログのタイトルに「出力(アウトプット)」があるように、個人的には非常に大切なことだと思いますので、ぜひ身につけていきましょう。
アウトプット仮説
アウトプット仮説とは、言語習得には、インプットだけではなく、アウトプットも大切であるという仮説です。
そんなの当たり前と思われるかもしれませんね。
アウトプット仮説というくらいですから、たくさん話せば(アウトプットすれば)できるようになるの!?と思ってしまいそうですが、アウトプット仮説は、ただたくさん話しさえすれば習得は進むという単純な話ではないようです。
アウトプット仮説は、スウェインによって提唱された説で、3つのポイントがあり、それらを通して言語習得が進むという説です。
その3つのポイントとは、ギャップへの気づき、言語形式への注意、仮説検証の3つです。
一つずつみていきましょう。
ギャップへの気づき
アウトプットすると、ギャップへの気づき、つまり伝えたいけど伝わらないことがわかるというのが1つ目のポイントです。
いざコミュニケーションをしてみると、伝えたいのに伝えられないということがあります。
外国人に道を聞かれて教えてあげたいのに伝わらないときや、海外旅行先で駅への行き方を聞きたいのに伝わらないときにはもどかしくて悔しい思いをしたことがある人は少なくないと思います。
このとき、「あなたが伝えたいこと」と「あなたが伝えられること」との間はギャップがあります。
もしギャップがなければ、言いたいことはすべて相手に伝わるはずです。
アウトプットしようとした結果、そのギャップに気づくことができ、その気づきがギャップを埋めるための新しい知識を獲得するきっかけとなります。
例えば、アメリカで「この店でアルバイトしたいです。」と伝えたいとします。
しかし、発話者は「I want to have arubaito here.」文法的にシンプルで何も間違っていないと思っていますが何回言い直しても相手には通じません。ここで、実際に何かがおかしくて通じていないこと、つまり「言いたいこと」と「言えること」との間にギャップがあることに気づきます。そこで、原因を探すために辞書でアルバイトを調べてみると、英語にはアルバイトという単語はなく、「part-time job」という言葉を使うことがわかりました。自分の間違いに気づきこれ以降はもう同じ間違いはしなくなりました。
このように、ギャップに気付き、そのギャップを埋めていくことで言語習得が進むのがアウトプット仮説です。
少々話は逸れるかもしれませんが、勉強する際、先生になったつもりで教えるようにするといいと聞いたことがありますか。
実際に教えてみると、自分が「分かっていること」と「分かったつもりになっていること」とのギャップに気づけます。
すごくアウトプット仮説みたいだなあと思います。
言語形式への注意
アウトプットをすることで、言語形式に注意できるというのが2つ目のポイントです。
何かを伝えようとすると、言語形式、つまり、語彙や文法、発音などに注意が向くことがあります。
例えば、こんな例があります。
学習者 「おいしいじゃないです。ん?あれ?おいし・・・く?ないです。」
教師 「何がおいしくないですか?」
学習者 「日本のお菓子はおいしくないです。」
教師 「どんなお菓子ですか?」
・・・・・(いくつかやりとりを終えた後)・・・・・
学習者 「イカのお菓子がおいしくなかったです。」
この学習者は、「おいしいじゃない」という形が何か変だと自ら気づいて、なんとか正しい形「おいしくないです」に修正できました。
それでもまだ何がおいしくないのか不明でしたが、教師とのやりとりを終えた後、学習者はイカのお菓子がおいしくなかったことが言いたいんだとわかりました。
そして最終的に「イ形容詞語幹 + くなかったです」と「〜がおいしいです」の2つの文法形式に注目できました。
例のように自分で気づける場合もありますし、他の人のフィードバックによって修正されることもあります。
このようにアウトプットによって、自分の発話を修正して理解可能なアウトプットを目指す過程こそ、言語習得がすすむと考えるのがアウトプット仮説の2つ目のポイントです。
仮説検証
仮説検証、つまり仮説を立て、実際に使ってみて、反応を見るというのが3つ目のポイントです。
学習者 「N1ってむずかっし。」
私 「むずかっし?」
学習者 「難しいです。」
私 「むずかっしは言わないんですよ。」
学習者 「そうなんですね。」
この学習者は、おそらく「あっつ(暑い)」「やっす(安い)」「やっば(ヤバい)」のような言葉をよく聞いているのでしょう。
そこで、学習者は「イ形容詞の『い』を言わなくても表現できるのかな?」と仮説を立てます。そしてその仮説が本当に正しいのか検証するために実際に使ってみたところ、聞き返されたことに加え、言わないよとフィードバックをもらいました。
そこで、学習者は「イ形容詞の『い』を言わなくても表現できるのかな?」と仮説を立てます。そしてその仮説が本当に正しいのか検証するために実際に使ってみたところ、聞き返されたことに加え、言わないよとフィードバックをもらいました。
その結果学習者は、「むずかっし」とは言わないことを身につけました。
このように仮説検証を繰り返しながら習得をしていくのが3つ目のポイントです。
まとめ
<アウトプット仮説>
インプットだけでなく、アウトプットも大切で、3つのポイントを通じて習得される。
<アウトプット仮説のポイント3つ>
①「言いたいこと」と「言えること」のギャップにより習得
② 理解可能なアウトプットを目指し、言語形式に注目し、修正しながら習得
③ 仮説検証をしながら習得していく
おまけ
提唱者であるスウェインは触れてはいないことなのですが、アウトプットにはもう一つ大きなポイントがあるということが言われています。
それは自動化です。
頭に知識があったとしても使えるかどうかは別問題です。例えば英語で、3人称単数には「s」をつけることを知っていても実際話すときにはつけ忘れることがあります。
また、どんなことでも初めのうちは考えながら時間がかかってしまうことでも、何回もやっていくと無意識にできるようになりますよね。これが自動化です。
これも頭の片隅に置いておくといいかもしれません。
おわりに
ギャップへの気づきのについての話になるのですが、学生はよく「先生の授業はわかりやすいです。」と言ってくれます。
教師としては嬉しいのですが、まさに学生は「わかったつもり」になっていることが多いので、アウトプットをしっかり行い、「わかりやすい」よりも「できるようになる」授業を心がけたいと思います。
参考にした本
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