さあ、今回でいよいよ最後、「ン」についてみていきたいと思います。
しかし「ン」は特殊音素として扱われるので特殊音素とタイトルを変えてみていきます。
特殊音素とは、そのまま特殊な音素なので、それぞれ、撥音、促音、引く音と名前があります。撥音は「ん」、促音は小さい「つ」、引く音は「ー」ですね。長音とも言いますね。
今回は撥音である「ン」をみていきましょう!
「ン」はまず音素記号では/N/と書きます。撥音である「ん」はパソコンで打つときに、「n」を押すので、そこから連想できます。
ちなみに簡単に音素記号とは撥音の目安、これから学習する音声記号(IPA)は実際に発音される音という感じで理解するといいのかなと思います。
僕の中で、いままで例外といってきた音は、IPAで表した時の記号が「ç」ように馴染みのない記号だったので、とりあえず例外として、わかりやすい順番で書いてきたつもりですが、「ン」は本当の例外といっても過言ではないと思います。
今日はそれをみていきましょう。
「ん」について
まずは皆さんも経験から知っていると思いますが、「ン」を単体で発音しにくいということです。もしあなたが悩んでいるときに、「んー」という音が出たとしても、実際に表記すると「うーん」となるのではないでしょうか。この単体で発音できないという特殊性を感じます。
そして、これは次の特殊性と関わってくるのですが、みなさんは「ジ」のとき、摩擦音と破擦音の二つあって、苦労した方もいると思います。同じ「ジ」なのに、前にくる言葉によって、2つも音があるのかと僕も思いました。しかし、「ン」にはなんと6種類も音があり、我々は日常的に使い分けています。しかも無意識的に。
これには少し狂気のようなものを感じます。。。多すぎますね。
このことからも「ン」はかなり特殊な音になります。
じゃあどうやって6種類も使い分けているんだということになりますが、簡単です。「ン」の後に続く音に影響を受けて、「ン」の音が変わります。
人間は何かを言う時、できるだけ楽な方がいいですから、後ろの音にできるだけ近い方法で「ン」を発音しようとします。どういうことか具体的にみていきましょう。
両唇音が続くとき
「ン」の後の音が、唇を使う両唇音の場合、「ン」は両唇音鼻音 [m]になります。
散歩は [sampo]、とんぼは [tombo]といった感じです。
両唇音の[p][b][m]が後に続くと、[m]になります。
さっくり言うと、パ・バ・マ行のときです。
よく天ぷらが英語で、「Tempura」と書いてあって、どうして「m」なの?と思ったことがある人もいるんじゃないでしょうか。
後ろにpがあるからだったんですね。
歯茎音が続くとき
「ン」の後の音が、歯茎音の場合、「ン」は歯茎鼻音 [n]になります。
みんなは [minna]、進路は [ɕinɾo]、(東急)ハンズは[handzɯ]のようになります。
歯茎音の[t][d][ts][dz][n][ɾ]が後に続くと、[n]になります。
歯茎硬口蓋音が続くとき
「ン」の後の音が、歯茎硬口蓋音の場合、「ン」は歯茎硬口蓋鼻音 [ɲ] になります。
「ニ」のときの記号ですね。
漢字は [kaɲdʑi]、ニンニクは [ɲiɲɲikɯ]、パンチは [paɲtɕi]のようになります。
歯茎硬口蓋音の[tɕ][dʑ][ɲ]が後に続くと、[ɲ]になります。
軟口蓋音が続くとき
「ン」の後の音が、軟口蓋音の場合、「ン」は軟口蓋鼻音 [ŋ]になります。
先ほどの [ɲ]と間違えないようにしましょう。
運気は[ɯŋkʲi]、仁義は[dʑiŋɡʲi]となります。(口蓋化の「j」はなくてもいいです。)
[k][g][ŋ]が後に続くと、 [ŋ]になります。
ちなみに、英語の「〜ing」の最後の記号は [ŋ]と書きます。
例えば、swimmingは「スイミング」と読んでしまいたくなりますが、実は「スイミン」と言ったほうがアメリカの発音に近くなったりします。
語末の「ン」
語末の「ン」は、口蓋垂鼻音で [ɴ]になります。
大文字のNのように見えますが、サイズが小文字のサイズです。
パンは[paɴ]、我慢は [ɡamaɴ]のようになります。
とりあえず、語の最後が「ン」なら、これになるので、簡単ですね。
母音、半母音、摩擦音が続くとき
そして最後になります。「ン」の後ろに母音、半母音、そして摩擦音が続くときは、鼻母音[Ṽ]で表します。
Vは英語で母音を意味する “vowel”から来たものだそうです。
単音は[taṼoɴ]、パン屋は[paṼja]、タンスは[taṼsɯ] のようになります。
このように[a][i][ɯ][e][o]や[j][w]や[ɸ][s][ç][h][ɕ]が来ると[Ṽ]になると言うことですね。
おわりに
「ン」のパターンは複雑ですが、最後の「ン」以外は、比較的区別はしやすいのではないでしょうか。
これが理解できれば、雑学として披露もできるかもしれませんし、英語も得意になるかもしれません。
また、「ン」の音は唇から口蓋垂まで、口の先から奥までのいろいろな部位を使って発音していてびっくりしますね。
6種類もあって、とてもストレスフルですが、せめてもの幸いは共通点として、全部鼻を使っていると言うことですね。
さて、これで、「ア」〜「ン」まですべて終わりました。本当にお疲れ様でした。
しかし、まだ特殊音素という点で、促音と長音が残っています。
次回はこれらを紹介していきたいと思います。
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