新・教授法⑤〜コミュニカティブ・アプローチ〜

前回はオーディオ・リンガル・メソッドを見ました。

科学に基づいた教授法で、短所もあるものの、かなりいい教授法でした。

しかし、そんなオーディオリンガルメソッドもいろいろな角度から批判されていきます。

今日はその中の1つである、コミュニカティブ・アプローチを見ていきたいと思います。

 

オーディオ・リンガル・メソッドとは

今回は教授法の中でも一番苦手な意識がある人も多いと思われるオーディオ・リンガル・メソッドについて見ていこうと思います。 有名な教授法なので覚えることが多いと思いますが、核となるキーワードを押さえておけば暗記する量は減らせます。 オー[…]

 

コミュニカティブ・アプローチの背景

オーディオ・リンガル・メソッドは戦後の教授法でした。

時は進んで、1960年代に革命的な出来事が起こりました。

チョムスキーの生成文法理論の誕生です。

日本語教育能力検定試験の勉強をある程度されている方なら、生成文法と聞くと、「人間は生まれつき文を作り出す言語能力を持っている(言語生得説)」ということがなんとなくでも頭に入っていると思います。

それってどういうことなのでしょうか。ここからもう一歩進めてみましょう。

前回のオーディオ・リンガル・メソッドは「刺激・反応・強化」によって言語能力を獲得しようというものでした。これはつまり、後天的に言語能力を獲得しようとするものなのです。

そして言語生得説では先天的に言語能力を持っているということなので、新しいチョムスキーの理論が支持されていくと、後天的な言語能力を獲得しようとするオーディオリンガルの勢いが衰えるというのは難しくないと思います。

さらに、コミュニカティブ・アプローチの話をする上で大切なのはハイムズが提唱したコミュニカティブ・コンピテンス(コミュニケーション能力のこと)というものです。

コミュニケーションには正しい文を作るだけでは行えず、いつ、誰に、どんな話し方をするかのような言語使用が必要としました。

また同じような考えとして、カナルとスウェインはこのことを文法能力、社会言語学的能力、ストラテジー能力、談話能力という言葉を使って言いました。

これも文法能力の育成に力を入れるオーディオリンガルの批判になっていますね。

このような背景からコミュニカティブ・アプローチが生まれました。

コミュニカティブ・アプローチのキーワードは昔の記事では「実」「意味」「伝達・機能」としましたが、改めて考え直して新しく2つに設定しました。

コミュニケーション重視」と「学習者中心です。

コミュニケーション重視

コミュニケーションとは言葉のキャッチボールだとよく言います。

キャッチボールというのはとてもいい例えだと思います。

キャッチボールはボールを相手のいる方向に投げます。相手が構えたグローブのところへうまく投げられれば理想的ですが、実際はそこまでコントロールよく投げられません。しかし、相手の方向へ向かって投げているので、受け手がボールが少し逸れたなと思ったら、ボールが取りやすい位置まで移動して捕ればいいのです。それを繰り返すことでキャッチボールができるわけです。

なぜこんな当たり前なことを言ったかというとこれはコミュニカティブ・アプローチの考え方だからです。

どういうことかというと、会話をする時、正確な文を作って相手に話すことができれば理想的ですよね。しかしこれはコミュニケーションであり、テストではないので、少し正確でないことを言ってしまっても、相手が理解できればいいですよね。

例えば、外国人観光客に「駅に行きます。」と話しかけられた場合、一瞬「ん?」となってしまいますが、駅に行きたいのかなと予想できますね。

この時大切なのは、正確な文ではありませんでしたが、駅に行きたいということが相手に伝わったということです。

コミュニカティブ・アプローチでは、正確な文を作れるようになるより、意味が伝わればいいということ、つまりコミュニケーションを重視します。

学習者中心

学習者中心という考え方は今までと違ってとても新しい考え方です。

今までは決まっているものをはいどうぞと教えていました。いわゆる教師主体でしたが、この頃から学習者が主体となったので、学習者のニーズ分析を行って、シラバスを作成します。

到達目標

コミュニケーション能力の向上

今までは話せるようになるだったのに対して、コミュニカティブ・アプローチはより高度な感じがします。

教材・練習法

このあたりは赤本にもいろいろ書いてありますが、そこまで特筆することはないと思っています。

なぜなら、今までの○○・メソッドというのはどう教えるかについての教授法でしたが、コミュニカティブ・アプローチはメソッドではなく、アプローチです。何を教えるかということを重視します。

どう教えるかを考えたら、絵カードやレアリアを使うというのは大切になってきますが、何を教えるかということを重視するのなら、絵カードやレアリアを使うことは手段に過ぎません。

コミュニカティブ・アプローチにおいての重要なことはインフォメーションギャップチョイスフィードバックの3つだと思います。

自分も相手も思考がまったく同じなら、会話する必要はありません。阿吽の呼吸です。

しかし、そんなことはありえません。会話には情報の差があるからこそ会話が始まります。そしてその中で様々な選択反応が起こります。

コミュニケーションを重視するかコミュニカティブ・アプローチだからこそ、この3つを大切にし、以下のような練習をします。

ロールプレイ、ディスカッション、プロジェクトワークなどです。

長所

学習者のニーズに沿うことができる

コミュニケーション能力が育つ

学習者中心なので学習者のニーズに合わせることもできます。そして意味、コミュニケーション重視ということでコミュニケーション能力が育つことにも納得できます。

そもそも名前が「コミュニカティブ」という言葉があることからもコミュニケーション重視というのは簡単です。

短所

言語知識の体系的学習が難しい

正確さが向上しにくい

伝わることを目的としているので、正確に文が作れなくても伝わればオーケーとし、そのため正確性が向上しにくいです。

また意味・コミュニケーションが目的なので、言語知識がおろそかになりやすいということが考えられます。これもオーディオ・リンガルの反対ですよね。

まとめ

まとめると以下のようになると思います。

〜コミュニカティブ・アプローチ〜
<背景>
チョムスキーの理論
<コミュニカティブ・アプローチとは>
学習者中心・コミュニケーション重視

おわりに

コミュニカティブ・アプローチでした。

コミュニカティブ・アプローチはなんか重要なのはわかるけど何が重要なのかわかりづらいところだと思います。

日本語教育能力検定試験ではオーディオ・リンガルやコミュニカティブ・アプローチが特にポイントなのかなと思っているので、まずはこの2つについてよく理解しておきたいところです。

この2つをしっかり押さえておけば、残りはそれほど複雑ではないと思います。

 

小林ミナ(2019)『日本語教育よくわかる教授法』アルク
西口光一著(2017)『日本語教授法を理解する本 歴史と理論編 解説と演習』バベルプレス
ヒューマンアカデミー著(2018)『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第4版4刷』SHOEISHA

 

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